認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する向精神薬の適応外使用について、クエチアピンを中心に理解を深めるクイズです。高齢者への安全な薬物療法と服薬指導のポイントを学びましょう。
クイズの内容に問題がある場合や、改善のご提案がございましたら、お気軽にお知らせください。
📧 内容についてお問い合わせ82歳女性、アルツハイマー型認知症と診断されて3年。グループホームに入所中。最近、夜間の不眠と興奮、介護拒否が顕著になってきた。
既往歴:高血圧症、脂質異常症
現在の処方:ドネペジル塩酸塩5mg(朝食後)、アムロジピン5mg(朝食後)、ロスバスタチン2.5mg(夕食後)
主治医より「夜間の興奮と不眠が続いており、非薬物的介入を試みたが改善が見られない。BPSDに対する薬物療法を検討したい」との相談があった。
認知症のBPSDに適応外処方として使用されることがある薬はどれでしょうか?
クエチアピンフマル酸塩(セロクエル®)の日本における承認適応症は以下の通りです:
※双極性障害のうつ症状に対しては、徐放製剤のビプレッソ®(クエチアピンフマル酸塩徐放錠)が2017年に承認されています。
臨床現場では、以下の疾患・症状に対して適応外使用されることがあります:
使用目的 | 投与量の目安 | エビデンス |
---|---|---|
認知症のBPSD | 12.5-100mg/日 | ガイドライン記載あり※ |
せん妄 | 12.5-50mg/日 | 臨床経験に基づく |
不安障害 | 25-150mg/日 | 小規模研究あり |
睡眠障害 | 12.5-50mg/日 | 鎮静作用を利用 |
双極性障害(躁病相) | 400-800mg/日 | 海外では承認 |
※「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」に記載
クエチアピンは多受容体作用型の非定型抗精神病薬で、複数の神経伝達物質受容体に作用することで効果を発揮します。
受容体 | 親和性 | 作用 | 臨床効果 |
---|---|---|---|
セロトニン5-HT2A | 高い | 遮断 | 陰性症状改善、錐体外路症状軽減 |
ドパミンD2 | 中等度 | 遮断(fast dissociation) | 陽性症状改善、幻覚・妄想抑制 |
ヒスタミンH1 | 高い | 遮断 | 鎮静、体重増加 |
アドレナリンα1 | 中等度 | 遮断 | 起立性低血圧、鎮静 |
アドレナリンα2 | 中等度 | 遮断 | 抗うつ作用の可能性 |
ムスカリンM1 | 低い | 最小限 | 認知機能への影響少ない |
クエチアピンの最大の特徴は、ドパミンD2受容体に対する「低親和性・速い解離」です:
クエチアピンは肝臓でCYP3A4により代謝され、活性代謝物ノルクエチアピンを生成します:
パラメータ | 値 | 臨床的意義 |
---|---|---|
Tmax | 1.5時間 | 効果発現が比較的速い |
半減期 | 約7時間 | 1日2-3回投与が基本 |
蛋白結合率 | 83% | 薬物相互作用に注意 |
代謝 | 主にCYP3A4 | 代謝阻害薬との併用注意 |
通常、成人にはクエチアピンとして1回25mg、1日2又は3回より投与を開始し、患者の状態に応じて徐々に増量する。通常、1日投与量は150〜600mgとし、2又は3回に分けて経口投与する。なお、投与量は年齢・症状により適宜増減する。ただし、1日量として750mgを超えないこと。
日数 | 1日投与量 | 投与方法 |
---|---|---|
第1日 | 50mg | 25mg×2回 |
第2日 | 100mg | 50mg×2回 |
第3日 | 200mg | 100mg×2回 |
第4日 | 300mg | 100mg×3回 |
第5日以降 | 150-600mg | 分2-3 |
「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」では以下が推奨されています:
要因 | 変化 | 対応 |
---|---|---|
腎機能低下 | 排泄遅延 | 低用量から開始 |
肝機能低下 | 代謝低下 | 増量は慎重に |
体重減少 | 分布容積減少 | 血中濃度上昇に注意 |
併用薬 | 相互作用リスク | CYP3A4阻害薬に注意 |
クエチアピンの最も重要な禁忌は糖尿病です:
項目 | 確認内容 | 対応 |
---|---|---|
既往歴 | 糖尿病の既往 | 処方不可 |
家族歴 | 糖尿病の家族歴 | 慎重投与 |
検査値 | 空腹時血糖、HbA1c | 定期的モニタリング |
症状 | 口渇、多飲、多尿 | 早期発見に努める |
特に設定されていませんが、以下の患者には慎重投与が必要です:
高齢者では以下の点に特に注意が必要です:
リスク | 理由 | 対策 |
---|---|---|
過鎮静 | 代謝能低下 | 低用量から開始 |
転倒 | 起立性低血圧、筋力低下 | 環境整備、歩行評価 |
誤嚥性肺炎 | 嚥下反射低下 | 食事観察、口腔ケア |
認知機能低下 | 抗コリン作用(軽度) | 定期的評価 |
認知症関連精神病症状を有する高齢患者への抗精神病薬投与により、死亡率が約1.6〜1.7倍増加することが報告されています。
⚠️ 重大な副作用
分類 | 副作用 | 頻度 | 対処法 |
---|---|---|---|
精神神経系 | 傾眠 | 30.7% | 減量、投与時間の調整 |
精神神経系 | 頭痛・頭重 | 12.2% | 対症療法 |
消化器 | 便秘 | 10.7% | 緩下剤、水分摂取 |
循環器 | 頻脈 | 8.7% | 心電図確認 |
錐体外路症状 | アカシジア | 5.7% | 減量、抗パーキンソン薬 |
副作用 | モニタリング項目 | 頻度 |
---|---|---|
体重増加 | 体重 | 月1回 |
脂質異常症 | TG、T-Chol、LDL-C | 3ヶ月毎 |
高血糖 | 血糖値、HbA1c | 月1回 |
薬剤名 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
---|---|---|
アドレナリン | アドレナリンの作用を逆転させ、重篤な血圧降下を起こすことがある | アドレナリンはα、β受容体の刺激剤であるが、本剤のα受容体遮断作用により、β受容体刺激作用が優位となり、血圧降下作用が増強される |
薬剤 | 相互作用 | 対策 |
---|---|---|
バルビツール酸誘導体 | 中枢神経抑制作用増強 | 減量を考慮 |
ベンゾジアゼピン系 | 過鎮静、認知機能低下 | 併用を避ける |
アルコール | 相互に作用増強 | 飲酒を避ける |
分類 | 薬剤例 | 影響 | 対応 |
---|---|---|---|
強力な阻害薬 | イトラコナゾール | 血中濃度上昇 | 減量考慮 |
誘導薬 | カルバマゼピン | 血中濃度低下 | 増量考慮 |
→ 心電図モニタリングが必要
薬剤 | 問題点 | 対応 |
---|---|---|
抗コリン薬 | 認知機能悪化 | 原則併用避ける |
ドネペジル等ChE阻害薬 | 理論的に拮抗 | 効果を相殺しない用量で |
降圧薬 | 過度の血圧低下 | 血圧モニタリング |
パーキンソン病治療薬 | 効果減弱 | DLBでは特に注意 |
クエチアピンは主にCYP3A4で代謝されるため、この酵素に影響する薬剤との併用に注意が必要です。
てんかん患者に抗うつ薬を処方する際、添付文書で禁忌となっている薬剤を正確に把握することは薬剤師の重要な責務です。四環系・NaSSA・SNRI・SARI系抗うつ薬の禁忌区分の違いを理解し、適切な疑義照会ができるようになりましょう。
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※ 重要な注意事項
本クイズは教育目的で作成されています。実際の診療・調剤には必ず最新の添付文書をご確認ください。
最終確認日:2025/1/29